竣工 | : | 2003年 |
所在地 | : | 東京都大田区 |
用途 | : | 専用住宅 |
構造 | : | 軽量鉄骨造 |
規模 | : | 地上3階 |
面積 | : | 敷地面積 47.81m² 延床面積 70.48m² |
敷地条件 | : | 第1種住居専用地域 |
家族構成 | : | 夫婦+子供1人 |
構造設計 | : | 空間工学研究所 |
担当 | : | 小川リエ |
掲載雑誌 | : | GA Houses No.76 |
敷地は密集した住宅が建ち並ぶ街区の一角にあって、その面積は50m²(15坪)に満たない。法規的な建築面積を28m²(8.5坪)以下に限定し、さらに北側からは斜線制限が加わる。唯一の救いは、この敷地の南が交通量が少ないのに幅員9mある、割と静かな道路だということくらいだ。
施主はこうした厳しい条件を承知の上で、都心近くのこの土地を購入し、ここに住み続けることを決めた、若い3人の家族である。ライフスタイルはシンプルで、新居に持ち込む荷物は極めて少ない。
とはいえ、与条件を組み込むと3層分の床はどうしても必要で、予算から考えると木造が妥当なのだが、斜線制限をかわすとやや扁平にならざるを得ず、法定面積限度一杯に建つ木造建築は揺れが大きくなることが懸念された。
これに対して構造家が提示したアイデアは、軽量鉄骨による鳥籠上の構造である。450mmピッチで立つすべて同寸法の溝型鋼は、壁面形状に沿って最高高さまで立ち上がり、外壁面を構成しながら床を支持し、そのまま仕上げの下地材にもなるし、サッシュの受け材にもなる。部材はすべて工場でピース化されて現場に搬入され、各壁面毎に幅広の全面道路を使って軸組された後、この計画のために開発されたディテールに従って、すべてボルトで固定された。
全体は、半階づつずれ上がっていくことで獲得できる一室空間を基本としているが、こうしたのはとても小さなこの敷地にあっては細分化された諸室を階毎に整理してそれを積層させるのではなく、ひとつながりの連続した、しかも流れるような空間として全体を獲得するべきだろうと考えたからだ。結果として全体は、部屋が積層された住宅というよりも、むしろ踊り場が拡張された階段といった様相をもつものになった。
京都の金地院に「八窓の席」という小堀遠州の作といわれる茶室があるのだが、この有名な茶室の名称からヒントを得ている。
この住宅にはトップライトも含めて主要な窓が10個あるのだが、茶室のような濃密で完結している小宇宙ではなく、それぞれ特性を与えた10個の窓を通して、外を取り込んだり外に向けて伸展させたり、あるいは必要によっては遮断したりして、この敷地がもつ多様な側面を顕わにしながら、より大きな全体を獲得することも目論まれている。それが、この土地で生きていくことを決めた若い家族に対する回答だろうと思ったからである。