建設地は、豊かな緑に包まれた高低差30mほどのすり鉢状をしており、地勢の有する場のポテンシャルは、南北に敷地を二分しながら、そこを貫いて走るすり鉢の底……谷状の部分……において最も高い。この部分において、自然はより親密なスケールを持った美しい渓谷状の景観を呈するものとなり、奥へ奥へと人の視線を誘導する線形の軸性をその特徴として見せることになる。一方、谷北側の、陽光を浴びて美しく光る平場部分は、成形された日本庭園としての様相をすでに持っており、これは、『明るく快適な広場の確保』というプログラム上の要請に対し、そのまま素直に答えられるものである。計画にあたっては、この景観特性を十分尊重し、建築のみが環境の中に突出ことなく、むしろ自然の中にそっと抱かれるようにして在りたいと考えた。そういった場所での建築は、人がそこを巡りそれを媒介とすることで、そのままの状態では感知しにくい自然景観や敷地特性を、より鮮明に意識化できるような環境装置であるべきだろう。したがって建築の表現は、土着的・風土的な形態や様式的な表現は避け、できるだけ抽象的で単純な幾何学的直線構成とした。こうして曲線的な自然形態と対峙・対話させることでお互いを際立たせ、結果的に仙台固有の美しい森に包まれて在る、新しい総体的な環境を創出することを意図した。そのため、敷地の形状に変形を加えるケ所を最小限に押さえることを最優先とし、樹木の保存に務め、黒松城も移築せず、現況の位置で計画に取込むことを前提とした。調整池についても、既存池の線形をできるだけ残しながら、これを改修し、景観的のみでなく設備的にも取込んで利用することとした。